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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)345号 判決

原告 合同砂利株式会社

被告 東洋絹織株式会社

一、主  文

被告は原告に対し金七十二万五千二百三十三円三十三銭とこれに対する昭和二十五年九月六日からその支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求は棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金七十七万七千四百円とこれに対する昭和二十五年九月六日からその支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めその請求の原因として、

(一)  被告は昭和二十五年八月六日原告に宛て金額百万円、満期昭和二十五年九月四日、支払地東京都中央区日本橋室町二丁目、支払場所日本勧業銀行日本橋支店、振出地東京都港区芝下高輪町六十一番地の約束手形一通を振出交付した。よつて原告は、満期の翌日たる昭和二十五年九月五日に、支払場所において右手形を呈示してその支払を求めたところ、預金不足の理由で支払を拒絶された。

(二)  そこで原告は被告より、右手形債務の担保として、交付をうけていた白紙委任状付の被告会社の株券二万株を、訴外三伸証券株式会社に委託し証券取引所において昭和二十五年十一月二十九日、三十の両日に代金合計金二十五万二千六百円(単価二十円で二千株、十八円で九百株、十七円で七百株、十六円で千六百株、十五円で八百株、十四円で七百株、十三円で四百株、十一円で二千九百株、十円で一万株)で売却し、その代金額から右訴外会社に手数料として金三万円を支払つた残額金二十二万二千六百円を前記手形債務の一部弁済に充当した。

(三)  よつて原告は被告に対し、右手形金額から前記充当金額を差引いた残額金七十七万七千四百円と、これに対する手形呈示の翌日たる昭和二十五年九月六日からその支払ずみに至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金との支払を求めるため本訴に及んだものである。

と述べ、被告の抗弁に対し、本件手形が昭和二十五年二月十日原告より被告に貸与した金百万円の貸金返済の為に振出されたものであることは認めるが、その他の抗弁事実は否認する。と述べた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告の請求原因に対する答弁並に抗弁として、

(一)  被告が原告に対し原告主張の本件約束手形を振出交付し、原告がその主張の日時に右手形を支払場所において呈示して支払を求めたところ支払を拒絶されたことは認める。

(二)  本件手形は、昭和二十五年二月十日被告が原告より借りうけた金九十万円の債務の支払のために振出されたものであるから、被告の本件手形上の義務は金九十万円の限度で発生したに過ぎない。もつとも右消費貸借に際しては原告より金百万円の貸与をうける約束であつたけれども原告は利息として金十万円を天引きし、現実には金九十万円を貸与したにすぎないから、消費貸借は、現実に金員の交付のあつた金九十万円について成立したに過ぎない。

(三)  原告は本件債務の担保として被告より差入れた被告会社の株券二万株を法律上定められた質権実行の方法によらず、任意売却によつて処分したのであるが任意売却の場合にはその処分方法価格等はすべて原告の自由な決定に委されているのであるから、この場合には、処分価格の高低は原告の責任であり、流質による代物弁済と同一の理由によりその売却代金額の如何にかかわらず原告の右任意売却により被告の債務は全部消滅したものである。

従つて原告が右債務額と売却代金との差額を被告に請求することは失当である。

(四)  仮に右抗弁が理由ないとしても原告の主張する株券処分価格は不当に低廉であり、原告が信義誠実の原則に則り適当な配慮の下に右株券を処分したならば、少くとも時価相当の金三十六万円の代金(単価金十八円)を取得し得た筈であるから、被告の本件債務は、少くとも右金額の範囲においては、消滅に帰したものというべきである。このことは、原告が右の如く売却した二万株を前記原被告間の消費貸借の仲介人であつた訴外鶴岡潤三が三伸証券株式会社から買受け同人はその後これを単価十七円ないし二十円の間で他に転売している事実からみても明かである。

(五)  なお、仮に被告の本件債務が前項に主張した相当価格の範囲において当然に消滅することがないとすれば、被告は原告の不当に低価な処分行為によつて、右二万株の相当価格である金三十六万円から、原告の主張する弁済充当額二十二万二千六百円を差引いた金十三万七千四百円の損害を蒙つたわけであるから、被告は原告の右不法行為による損害の賠償請求権を以て原告の本件手形債権と対当額において相殺する。

と述べた。

<立証省略>

三、理  由

(一)  被告が昭和二十五年八月六日原告に宛て原告主張のような金額百万円の約束手形一通を振出交付し、原告がその主張の日時に支払場所において右手形を呈示し支払を求めたところ支払を拒絶されたことは当事者間に争がない。

(二)  被告は右約束手形は、昭和二十五年二月十日被告が原告より借受けた金九十万円の返済の為に振出されたものであると主張するのでこの点について判断する。証人鶴岡潤三の証言及び原告会社代表者秋山喜一の供述によると、原告は被告会社の相談役であつた鶴岡潤三を通じて昭和二十五年二月十日被告に金百万円を利息月六分返済期同年三月九日の約束で貸与するにあたり原告会社代表者秋山は被告会社の代理人であつた鶴岡に現金百万円を一旦交付したけれども鶴岡は即時その場で一ケ月分の約定利息として金六万円を右百万円の内から秋山に支払い、更に四万円を鶴岡自身の取得分として差引いた上残金九十万円を被告の承諾の下に被告の訴外木島某に対する債務の弁済に充当したことが認められるから、この事実関係によれば、右鶴岡が被告の代理人として原告との消費貸借により現実に受領した金員は九十四万円であると認めるのが相当である。もつとも、右認定の如く被告の代理人鶴岡は一旦百万円を受領したけれども即時その場でその内から六万円を利息名義で原告に支払つているのであるから、借主である被告の受けた経済上の利益からいえば、この六万円をいわゆる天引利息として予め元金中より控除しその残額について授受があつた場合と同様にみなして差支ないものと考える。しかしながら、金銭の消費貸借において、貸主が予め約定利息の天引をする場合でもそれが利息制限法所定の範囲内のものである限りはたとい現実の金員授受がなくてもこれに相当する経済上の利益を借主において取得したものと認むべきであるから結局本件消費貸借は、当事者間に現実に授受せられた右の金九十四万円とこれに対する利息制限法所定の最高利率年一割(前記月六分の利率はこの最高限を超過するからこの最高利率に迄引直して)による一ケ月分の利息の合計額すなわち金九十四万七千八百三十三円三十三銭(厘以下切捨)について成立したものと認めることができる。被告は本件消費貸借は、現実に金銭の交付をうけた金九十万円について成立するに過ぎないと主張するけれども被告の立証によつては右の認定を左右するに足らない。そして本件手形が原被告間に成立した右認定の消費貸借上の債務の支払方法として被告が原告宛に振出したものであることは原告も争わないところであるから、被告はこの消費貸借上の債務の範囲で原告に対し本件手形金支払義務を負担するものといわねばならない。

(三)  次に被告が原告に対し本件債務の担保として差入れていた被告会社の白紙委任状付株券二万株を原告が任意に売却処分したことは当事者間に争がない。そうして、被告は、原告が右のような任意処分方法をとつた以上、原告は債務の弁済に代えて右売却代金を取得したものというべきであるからそれによつて被告の債務は全部消滅したと主張するけれども、本件のように金員の借主がその債務の担保として比較的価格の変動しやすい株券の如きものを貸主に交付する場合においては、特に反対の事情が存在しない限り借主が期日に借受金の返済をしないときは貸主においてその担保株券を任意の方法によつて換価し、その換価代金を以て元利金の弁済に充当しなお不足があるときは借主に対し請求できる趣旨であると推認するのが相当であり、被告の主張するように換価代金を以て債務全額の弁済に代える趣旨であつたことを認めるに足りる証拠はないから、被告の右主張は理由がない。

(四)  次に原告が前記株二万株をその主張の日に訴外三伸証券株式会社に委託し証券取引所においてその主張の各単価により合計金二十五万二千六百円で売却し、その内から同会社に支払つた手数料三万円を差引いた残額二十二万二千六百円を被告に対する本件貸金債権の弁済に充当したことは、原告代表者秋山喜一の供述により成立を認めうる甲第二号証の一、二と同供述とによりこれを認めることができる。ところが被告は右株券の処分価格は不当に低廉であり原告が信義則に従い適当な配慮の下にこれを処分したならば少くとも当時の時価相当額である三十六万円で売却し得た筈であると主張するので更にこの点について判断する。前記甲第二号証の一、二、成立に争のない甲第一、三号証と証人鶴岡の証言及び原告代表者の供述を綜合すると、原告と被告間の前記消費貸借において、当初その返済期は昭和二十五年三月九日の約束であつたが被告において期日に元金の返済ができなかつたので爾来原告は約一ケ月毎にその返済期を猶予し、その都度その返済期を満期とする被告振出しの約束手形を受領し、本件手形はかくして数回の書替後最後に受領した手形であること、被告は右消費貸借成立後三ケ月分の約定利息を支払つたけれどもその後は利息の支払もなく一方前記担保株券の価格は原告が受領後漸次下落の傾向にあつたので、原告は本件手形の支払が拒絶せられた後被告に対し担保株券を処分すべきことを通告した上前認定の通り処分したものであり、しかもその処分価格は取引所におけるその日の建値によつたものであること、がそれぞれ認められるので、これらの事実関係からみるときは、反証のないかぎり原告は本件担保株券の処分について、担保提供者である被告の利益を害しないよう善良なる管理者としての注意義務を一応つくしたものと認めるのが相当である。被告の援用する成立に争のない乙第一号証の一、二によると、本件担保株券の取引所における建値が原告の処分した日の前日である同年十一月二十八日には一株金二十二円、処分後の同年十二月二日には一株金十五円であつたものと認められるけれども、株券のように比較的価格の変動しやすいものにあつては何人と雖も適確にその騰落を予想することは困難であるから、原告の処分の前後において右のような建値があつたとしても、唯それだけのことから直に被告の主張するように原告の株券処分が信義則に違反した不当の処分であると断ずるのは担保権利者である原告に対し酷に過ぎ、相当でない。その他被告の全立証によるも、原告の処分価格が不当に低廉であつたことを認めうるような資料は存しない。従つてこの点に関する被告の抗弁(事実摘示(三)と(四))はいずれも理由がない。

(五)  よつて、原告の本訴請求は、前段(二)において認定した金九十四万七千八百三十三円三十三銭から担保株券の処分代金により弁済を得た金二十二万二千六百円を差引いた残額金七十二万五千二百三十三円三十三銭とこれに対する本件手形呈示の翌日である昭和二十五年九月六日以降支払ずみに至る迄商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲において理由ありとして認容すべきも、その余の部分は失当として棄却すべく、訴訟費用については民事訴訟法第八十九条、第九十二条但書を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 岸上康夫)

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